
今回は、オペレーティング・リースや日本型オペレーティング・リースで出てきた【船舶の残価】について深めていきたいと思います。
前回記事も合わせてご覧ください。
さて、オペレーティング・リースを組む際、リース会社は、対象物件について、契約終了時の価値を査定し、その物件価格から査定金額を残存価格(以下残価)として差し引き、リース料を計算すると説明しました。

リース契約終了時、海運会社が買取ることになれば問題ありませんが、市場に売却するとになって「買手が付かない」「残価を割る安価でしか売れない」となってしまっては大変です。
ですから、残価の設定について、リース会社は慎重に行っています。
では、この残価どのように決定しているのでしょうか。また、残価が高くつく船舶の特徴はあるのでしょうか。
簿価とは異なる船舶の価値
船舶の減価償却においては、耐用年数13~15年を用いて償却されていき、償却後の船舶の価値(簿価)は貸借対照表に残ります。
しかし「簿価が分かれば、船舶の価値が分かるんだ!」というのは間違いです。
なぜなら、スクラップバリューが近年の鋼材の価格に応じて変動することや、近年船舶の経済耐用年数が伸びてきており中古でも十分売れる可能性があり、簿価以上の価値が見込めるからです。
では、船舶の価値はどのようにして計るのでしょうか。
ポイント①船齢から考える
船の進水後の経過年数を船齢といいます。船の年齢ですね。
日本では減価償却期間の15年を基準にして、10年以内を新船・10~20年を中古船・20年以上を老齢船と呼ぶことが多いようです。厳密な定義はないようですが…。
比較的まだ利用できる中古船(15~20年前後)は多くの海外買主が興味を示す可能性が高いですが、一方25年以上は需要が落ちる傾向にあります。
ポイント②汎用性の確認
いくら立派な船舶でも、1社でしか使用できない仕様になっている場合、中古市場で買手はつきません。よって、他社でもその船舶を活かせる汎用性という視点が重要になってきます。
船舶は、種類が細分化されていますので、それぞれの特徴と汎用性を見ていきましょう。
<コンテナ船・ばら積み船>
コンテナ船・ばら積み船は、コンテナサイズが国際規格で決まっていることもあり、どの海運事業者でも利用できる仕様に設計されていることが多く、汎用性が高い船舶です。よって、買手が付きやすい船舶といえるでしょう。
<タンカー>
タンカーには、「ダブルハル」という構造の船舶と「シングルハル」という構造の船舶の2つがあります。主に原油タンカーにおいて船体が二重構造となっているものをダブルハル、一重構造のものをシングルハルと呼んでいます。積荷の原油が外板一枚で海と隔てられている「シングルハル」は、座礁等による軽微な損傷事故でも原油流出事故を起こしてしまう危険があるため、1996年以降に建造するタンカーは船体ダブルハル化が義務付けられています。そのため、ダブルハルの方が汎用性が高いといえます。
<旅客船・車両運搬船>
船会社のための仕様に設計されていることが多く、汎用性という意味では劣る部分があります。旅客船は、デザインやレイアウトが船舶によって大きく異なりますし、車両運搬船は自動車メーカーとの結びつきが強いので、その自動車メーカの車両を運搬するための仕様になっていることが多いようです。
ポイント③マーケット価値
船種ごとに中古船売り買いマーケットが存在し、売買を取り持つブローカーを通じて、船舶の種類ごとのマーケットでの価値を知ることができます。
しかし、船価は船の詳細仕様やコンディション、引き渡しタイミング等によって変動しますので、注意が必要です。
ポイント④専門家へ鑑定依頼
より詳細が知りたい場合、鑑定評価により船舶の価値を取得することもできます。
船価評価(船価鑑定)をしている企業に依頼すると、比較的信頼できる情報が得られます。
将来価値を見定めるのは難しい…
とはいえ、約10年先(リース契約終了時)の将来価値を正確に出すというのは、かなり困難です。
ですから、リース会社は、これらのポイント①~④を加味し、複数の情報を平均し、さらにその平均値×80%を残価設定するなど、慎重に設定しているのです。

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